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 ウラニーノから今年最初の新作が届いた。題して『ダンボールに囲まれて』。タイトルチューンは、「ウラニーノらしいものができた」と山岸も自負する力作だ。一篇の短編小説のようだ、と喩えられることも多い山岸が作り上げる物語世界だが、今作では、ダンボールをテーマにした(って彼ら以外に考えないと思うけどw)3人の登場人物による群像劇が描かれる。

「最初は“ダンボールに囲まれて”というフレーズが単純に出てきて、同じダンボールに囲まれるのでも3パターンあるなと、シチュエーションが浮かんできたんです」と話す山岸。いつも以上に、耳を傾けて浮かんでくる光景は鮮やかだ。一緒に暮らしていた彼女が出て行くことになり、彼女の荷物がつまったダンボールの脇で、フラッシュバックする思い出とともに放心状態で寝転がる〈オレ〉。任された新商品開発の仕事が大コケし、不良在庫のダンボールの山に囲まれた倉庫の窓に辞表をペタンと貼り付けるOLの〈あたし〉。絶望の底で〈何も感じない〉彼/彼女は、〈神様なんて絶対にいない〉と思う。ギターのイントロに導かれるように、はじめは語りかけるようにして、そして次第に訴えかけるように、切実な心の叫びが歌い上げられる。

 サビをむかえたあとに現われるもう1人の主人公「ぼく」は、野良猫と暮らすホームレスだ。彼にとってのダンボールとは、ずばり家なのだが、その前の2人とは対照的に、〈幸せを噛みしめて〉いる。明日に光を見出せない2人とは違って、その日暮らしの〈ぼく〉には〈明日の仕事が見つかった〉からだ。そんな彼にとって、〈屋根に使ってるブルーシートは青空のようにきれい〉で、〈照らす電球はまるで夜空のきれいなお月さま〉に見える。そして〈神様、ありがとうございます〉と祈るのだ。3人は、物語=曲のなかでは出会うことがないが、天から見下ろしているかもしれない「神様」の存在によって、皆がひとつの広い世界に生き/生かされていることを感じさせる(ちなみに「神様」はウラニーノの世界で頻出する言葉で、その意味を考えてみるのも面白いだろう)。歌詞カードにすると各々をわずか5行で書き分けながら、3人の境遇や心情を描写する言葉を細かく対比させ、パズルのように見事に組み立てられた完成度の高い曲は、山岸の創作メソッドのひとつを読み解くようで興味深い。そして何度もループして聴いているうちに、「自分がダンボール囲まれるとしたら…」と、もう1人の登場人物になったような錯覚も生まれてくる。初回生産限定盤には、この曲をモチーフにして制作された気鋭の映画作家による本格的なショートムービー(DVD)が付いているので、ぜひ手に入れて欲しい。

 2曲目の「手の鳴る方へ」は、「ハーメルンの笛吹き」伝説をも彷彿させるような、意味深なタイトルだ。実際、その内容もシリアスと受けとられるかもしれない。片時も放さない携帯電話や、ブログ、SNS、ツイッターなどへの常時接続……。物欲以上に人との「つながり」への渇望/中毒を加速させる現代のネット社会で、無限に膨張するネット空間に書き込まれる〈気づいて 気にして 気になって〉ほしいという無数の訴え。自傷や自殺をほのめかして次第に過剰になっていくその“サイン”に、逆に強い生への執着を嗅ぎ取って、醒めた思いを抱く「ぼく」。しかし、その「ぼく」も実は同じ思いを抱えていて、「手の鳴る方へ」助けには行けないんだという屈折した思いが、アコースティックのノスタルジックなメロディーに乗せて、これもある切実さをもって歌われる。〈苦しいことなんて 何もないんだぜ/ぼくはへらへらと笑っている もがきながら〉という終盤のフレーズに、鏡に映ったかのような“へらへら”な自分の顔が、目の前にまざまざと浮かびあがってくるではないか。ウラニーノの世界観が現実とより近づいた新しい側面を見た気がする。  3曲目「Go Back To The Hell」は、レコーディング中にプロデューサー佐久間正英氏の発案で生まれたというピストン大橋の初ボーカル曲。歌詞はピストンの実生活99%(?)のアイドル×オタク色満載のボーナストラックとなっている。

 6月にはメジャー1stフルアルバムもリリース予定というウラニーノ。その大きく実った果実を待ちつつ、先行するこのシングルでその唯一無二の世界を存分に堪能していただきたい。

ウラニーノオフィシャルHP
http://www.uranino.com/
2nd Single『ダンボールに囲まれて』
2010年5月26日リリース!
初回精算限定盤 ESCL-3340/¥1,500(tax in)CD+DVD
通常盤 ESCL-3442/¥1,020(tax in)CD

Interview&text : Eiji Kobayashi


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