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 「yeah まだまだ 遠くまで行こう 過ぎる景色よ/so far away never seen before 心の声を聞こう」――今年の夏の終わり、何気なくつけていたテレビのCMから流れてきたこの印象的なフレーズを聞くや、「この曲は何だ? 誰だ?」と耳を奪われた人は多いはずだ。SUBARU FORESTER(車)、FUJIFILM Fine Pix Z3(デジカメ)、SMIRNOFF ICE DRY(酒)と3社合同の超大型タイアップで、プロモーションとCMを兼ねた“プロマーシャル”ソングに抜擢されたのは、他ならぬmorphでも以前から大プッシュしているASIAN2のニューシングル〈遠く〉だ。〈ASIAN VIBRATION〉に続きavexからメジャー第2弾となる今作では、シンプルかつメロディアスな旋律が誰もの心を鷲掴みにすること間違いない。9/6の発売直後、拠点とする松本のスタジオで早くもアルバム制作に入っていた、ツインMicのTATSUとTWENTY"20"をキャッチした。  

彼らのこれまでの活動と興味深い経歴はぜひとも本冊子バックナンバーを参照してほしいのだが、ここで再度言っておきたいのは、彼らが「世界との距離を計るパースペクティブ」をしっかりと持っているということだ。その「距離」とはもちろん物理的なものを意味するだけではない。我々が生きているグローバル化した社会では、物理的な距離が心理的な距離や価値観と一致しないことはもはや明らかだが、その不安定な距離=差異を直視することは、そのまま跳ね返って自分の安全な居場所を揺さぶることにもなり、本当の意味でそれを認めることはなかなか難しい。だが本当の理解はそこからしか始まらない。二人は経験から、そのことを身をもって知っているのだ。だからこそ、的確にメッセージを発信することができるし、どこまでも届かせることができる。  

では具体的に〈遠く〉から順にみていこう。CMだけではポップでキャッチーなサビから単なる「イイ曲」と思われるかもしれないが、最後まで聴くと必ずどこかで心に引っかかるコトバがあるはずだ。そして注意深く耳を傾ければ、そのリリックひと言ひと言に込められた意味の深さが解るだろう。巷にあふれる雰囲気だけの甘っちょろいラブソングなどには決してない確かな芯。美しいハーモニーに乗せて歌われるのは、現状への皮肉を込め、誤ったベクトルへ進む世界を憂い警鐘を鳴らし、あるべき未来像を問う彼らの切迫した思いだ。「音楽だから、まず音としてカッコよくなきゃ意味がない。ある思想をプロパガンダしたいわけではなくて、考えてもらうために伝えたい。だからシンプルでパワーを持った言葉で聴き手に余地を残した」(TWENTY)。「メッセージソングだから自己満足じゃいけない。音の響きを優先しながらも説得力のある日本語を慎重に選んだ」(TATSU)。結果、壮大なスケール感を持ちながら、リスナーの内なる声に訴えかける稀有な作品となった。ひょっとするとこの曲は、あのマーヴィン・ゲイの〈What's going on〉に通じるとてつもない可能性を孕んでいるのかもしれない。  

続く〈Bitter Sweet〉は、「前作のツアー中に全国いろんなところに行きながら作った」(TWENTY)という曲。「人生は旅」との普遍的テーゼを変奏し、音楽に賭ける彼らの宣誓として鮮やかに提示してみせる。キレのあるギターと畳みかける掛け合いボーカルに哀愁漂うキーボードのリフが絶妙に絡む、まさに“Bitter Sweet”なASIAN2ならではの一曲。  

3曲目〈lie〉は、〈遠く〉でのメッセージ性を別のアプローチでより前面に押し出した曲と言える。また社会情勢にビビットに反応する彼らの“習性”によって「イラク戦争が始まった時にできた曲」(TWENTY)でもあり、サウンドもより厚みを増して過激なリリックを挑発的に叫ぶ。「でもこういう方が届くヤツもきっといるし、むしろ俺らもこっち側」(TWENTY)。3年以上前に形作られた内容ながら、“美しき日本”を標榜する安倍新政権へのASIAN2からの予言的な返答にも聞こえてくる、充分なアクチュアルな力をもった作品。  

ラストを飾る〈Stormy Crazy Show〉は、“ASIAN2 WORLD TOUR 2010 in south africa”とサブタイトルを冠した、「ボーナストラック的」なパーティーチューン。4年後のW杯の舞台を仮想としながらも、彼らが世界をツアーしている姿を浮かべるのは決して難くないから不思議だ。 「遠く」のCDジャケットには、地平線に沈む陽を臨んだ赤茶けた無人の大地と空に向かって振る、ピースサインのシルエットが刻まれている。その先にあるのは、ASIAN2がたどり着こうとする未知なるフロンティアだ。そしてまたその風景は、我々の祖先が森から出てヒトとなり、初めて大地を目にしたときの遠い記憶が刻まれてもいるだろう。まだこの世界は終わっていないし、荒廃の果てから何度でもやり直せる。彼らのメッセージが胸にこだまして、そう僕に信じさせてくれる。

http://asian2.jp

Interview&text : Eiji Kobayashi


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