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 下町出身の歌って踊れるボーカルデュオにしんが、ついにメジャーデビューを果たした。ここmorphでの月イチライブをベースに、札幌で30有余年の歴史を持つグランドキャバレー「すすきのエンペラー」でのステージ、そしてにしんの原点ともいえる毎週木曜の錦糸町でのストリートライブと、着実にファンを増やしてきた彼女たちの明るくパワフルな活動が実った。でもここからが本当のスタート。デビューを翌週に控えた彼女たちに話を聞いた。

「(6月)17日にCD出してから、300本を目標に全国のショップでインストアライブをする予定なんです。最近の新人ってそういう店頭ライブってやらないじゃないですか。にしんはやっぱり見てもらうのが一番だと思うから」。実際、口コミや友人に連れられて目にしたステージやパフォーマンスでにしんの虜になるファンは多い。「今までは下町と北海道だけだったんで、いろんなところに行くと視野が広がるし、気分も違くなるから面白い。いろんな人にも会えるし、いろんなことも言われるかもしれないけど、刺激されて成長できたらなと」。いい意味での“欲”が出てきたようだ。

 親しみやすいメロディーと息の合った振付が一体になり、一度聴いたら忘れられず、2度目には一緒に口ずさんでしまう“にしんの唄”。2人も大好きだというザ・ピーナッツやピンキーとキラーズといった往年の歌謡スタイルをも彷彿とさせるが、今回のメジャーデビュー盤で、またひとつ新たな一面を見ぜているのがカバー曲〈石狩挽歌〉(作詞/なかにし礼、作曲/浜圭介)だ。にしん漁をテーマに、1975年に北原ミレイが歌いヒットさせたこの曲、「北海道で歌ってると、“お前らにしんなんだから石狩挽歌ぐらい歌わなきゃいけないだろ”って言われたのがきっかけだった」というが、歌ううちに思い入れが強くなり、すっかり自らの歌として身につけた。「カバーでも、オリジナルでもそうですけど、いただいた歌詞を自分たちなりにどう理解して表現するかってっことですよね。誰かが思ったことをコピーするってことはもちろん嫌ですけど、私たちより人生経験のある回りのスタッフや年配の方たちの意見も聞いて、感情や風景を思い描きながら歌うようにして磨いていきたいです」

 いつごろからだろう、歌手をアーティストと呼び、自作の曲を歌うのが主流になったのは。確かにそれは素晴らしいことだが、もしかしたら自分がつくりあげた“想定内”の世界のことしか表現できなくなってしまっているのではないだろうか? 他人が込めた思いを想像し、自分の思いと重ね合わせて、経験したこともないレベルまで歌と感情を昇華させる。歌謡曲全盛の時代、たとえば山口百恵がなぜあんなに大人の歌をリアルに歌えたのだろう。松田聖子がなぜあれほど輝いていたのか。そこには「アイドル」というだけではすませられない、彼女たちの並々ならぬ努力と未知の世界へのイメージ力、そして+アルファがあったはずだ。そこに気づきはじめたにしんに、メジャーの階段を駆け登る今後を期待したくなるのだ。

 昨年末、2年以上続けているストリートライブで貯まったお金で、2人はキューバへ行った。「〈苔のむすまで〉という曲がちょっとラテン系のノリってこともあって、サルサとかにも興味あったし」。長時間のフライトと時差ボケに苦しみつつも、本場の大キャバレーの想像以上のステージがとても勉強になったという。「日本だとキャバレーっていうとお客さんおじさんばかりでってイメージですけど、全然違くて1000人ぐらい入る野外ステージみたいなとこで、ダンスはもちろん歌も衣装も素晴らしくて、最後は一緒に踊っちゃった(笑)」。街中いたるところに生の音楽が流れ、音楽と一体になっている人々の暮らしを目の当たりにして、お金でははかれない生活の豊かを実感したことだろう。

「私たちの歌も、気づいたら鼻歌で歌ってるっていいうような存在になりたいんです。ふとした時ににしんの曲をかけてくれたり歌ってくれたら最高ですね。今は心の片隅でいいんですけど、そこににしんっていう種を植えつけたい。それがいつかポンッと大きくなるかわからないから、水をあげるように歌をとどけて、みんなの心の中で育てていきたいですね」

 インタビューの翌週、デビュー前日にmorphで行われたワンマンライブでは、制服姿の高校生から下町のおばさんまで、にしんならではの幅広いファンが詰めかけていた。バックの「隅田川カルテット&花火」の充実したサポートをうけながら、オリジナルにカバーもおりまぜ20曲近くを熱唱。最高のスタートを切ったにしんが、これから全国に羽ばたく。

Interview&text : Eiji Kobayashi


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